INTERVIEWインタビュー

【 株式会社GiverLink 】 介護領域の変革という社会課題に向き合うスタートアップのリアルな姿

株式会社GiverLink|介護領域の変革という社会課題に向き合うスタートアップのリアルな姿

仙台市は、仙台のみならず東北全体のスタートアップ・エコシステムの発展に向け、様々な起業支援施策を生み出し、積極的に取り組んでいます。
グローバルチャレンジするスタートアップ、大学研究開発型スタートアップ、社会課題解決型スタートアップなど、この東北の地には様々な事業があり、そして起業家がいます。また、震災を経た経験があるからこその、地域に貢献しようとする強い想い持った起業家も増えています。
こうした様々なタイプの東北の起業家はどういう想いを持ち、どんなキッカケで、どのような挑戦や苦労を経験しながら成長し続けているのか。本シリーズでは、起業家にインタビューし、そのストーリーを解き明かしていきます。
今回は、介護業界で働いた経験をもとに、現場に存在するペインを着実にとらえその解決のためのサービスづくりを愚直に実現し、現場を変革することから業界全体の変革を志す仙台市のスタートアップ株式会社
GiverLinkのCOOである那須さんを取材いたしました。

Interviewee

写真:那須 智樹

株式会社GiverLink

最高執行責任者:COO 那須 智樹 さん

東京大学大学院の経済学研究科を修了後、楽天株式会社の新サービス開発室からキャリアをスタートし、総合コンサルティングファームを経て、現在は株式会社GiverLinkの最高執行責任者(COO)を担っている。山形県西置賜郡出身。



Interviewer

写真:鈴木修

仙台市スタートアップ支援スーパーバイザー

鈴木修

大学在学時にマーケティング及びEC領域で起業。その後、株式会社インテリジェンスの組織開発マネジャー、株式会社サイバーエージェントの社長室長、グリー株式会社のグローバルタレントディベロップメントダイレクターを経て、2014年に株式会社SHIFTの取締役に就任し国内及び海外グループ会社全体を統括。2019年には株式会社ミラティブでのCHRO(最高人事責任者)、2021年からはベンチャーキャピタルDIMENSION株式会社の取締役兼ゼネラルパートナーに就任。2013年TOMORROW COMPANY INC. / TMRRWを創業し、アドバイザーや社外取締役として、経営や組織人事の側面からスタートアップへのIPO支援や上場企業へのチェンジマネジメントを支援。国内外でのエンジェル投資実績も多数。2023年仙台市スタートアップ支援スーパーバイザーに就任。

―まずは、事業内容について教えてください。

株式会社GiverLink(ギバーリンク)COOの那須智樹です。私たちGiverLinkは、「介護のテクノロジーを最適化する」ことをミッションに掲げて「介護のコミミ」というサービスを運営しています。

「介護のコミミ」は、介護業界で使用するITツール、特に介護ソフトについて最適なものをマッチングするためのインターネットサイトです。2020年、Giver Link創業の年に、弊社CEOの早坂祐哉が中心となって立ち上げました。

―介護業界向けサービスでの起業をするきっかけにはどのようなことがあったのでしょうか?

早坂はもともと業界シェア1位の大手介護ソフトベンダーで営業をしていました。営業で最年少ナンバー1をとったこともあるほど成績は良かったそうですが、自社の製品を売るしかできないことにジレンマもあったそうです。

介護施設によって、どのソフトの機能がその施設の課題に見合っているかは異なってきます。そのため、本当にその施設にあったソフトを、公平に第三者の立場で提案できたらという考えから早坂は起業しました。それで作られたのが、この「介護のコミミ」というサービスでした。

―もともと介護業界でお仕事をされていた中で、実感値を持って業界課題を見出し起業に至ったのですね。起業しサービスを作り上げる第一歩、例えばWebサイト制作などはどのようにスタートしたのでしょうか?

当初webサイトは外注で開発しました。ランサーズというサービスで、企画を提示して募集をかけて行いました。早坂はというと、Webマーケティングを一から勉強した上で、比較サイトで流入を図るため、まずはメディアとしてコンテンツを充実させる必要があると考えて、毎日夜まで記事を書いていたそうです。このように、「介護のコミミ」は、最初は本当に小さく始めたプロジェクトでした。

―資金や体制をつくってのスタートではなく、早坂さん自身が地道に地道に実行しスタートさせたんですね。

そうですね。最初は、急激に拡大していくようなTHEスタートアップな成長は考えておらず、資金はエクイティ調達ではなく借金で集めて。ゼロベースから地道に作っていった結果、その成長の姿にたまたまお声がけをいただいて、本格的に資金調達に繋がっていったんです。早坂は、実行力の塊と言いますか。早坂はペインを見つけ一定の解決ロジックを立てたら、まずは自分で走ってみて、走りながら考える。特にこの業界のペインを見出したら、ブレずに徹底的に考え、信念を持ってやり抜く力があると思います。

―お話をお伺いしていますと、早坂さんははじめから大きく備えて進めていくのではなく、ピュアに課題に向き合い小さく実行し続けながら結果を積み上げて大きくしてくMVP(Minimum Viable Product)の成長サイクルを大切にしている起業家の方な印象です。そんな早坂さんが率いるGiver Linkとはどのような会社なのか、カルチャーも含めて教えてください。

何より、全員がチームとして動くことを重視しています。自分さえよければいいというのではなく、自分が良くても、他人が悪かったら、それは良いことではない。「全員で前に進もう」ということをバリューに掲げています。

他にもGiver Mind、つまり人に「与える人でいよう」、そしてChallenge & Learningというのもバリューになります。チャレンジし、成果を上げた人を称え合うウィンセッションというものも社内で実施しています。

―OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果)も導入していると耳にしましたが、そういったこともふまえて、チームで成長していくための会社づくりを考えられているんですね。

そうですね。金曜日夜は、近くのお店でケーキを買ってきて、飲み物片手に、今週ここが良かったよね、と…。早坂がそういうのが好きというのもありますが。福利厚生も充実していますし、リモートワークなども柔軟に選択できる環境ですね。僕自身はやはり人の顔を見て仕事したいというのがあり、週3東京から仙台に出勤するというスタイルにしています(※那須さんはR5年10月より仙台に移住)。

―創業から一貫して介護業界向けサービスで挑戦し続けられていますが、マーケットの現状や今後、その中での「介護のコミミ」の位置付けについても教えていただけますか?

介護業界全体の問題としてよく言われることとして、介護士は220万人いますが、高齢社会と働き手不足の顕在化により、2035年には69万人不足する、ということです。離職希望者も多く、絶対に必要な業界なのに悲鳴を上げている。私たちは、ここに重要なペインポイントが存在するとみています。外国人労働者の導入などの話もありますが、一番大切なのはやはり業界全体の生産性を上げることでしょう。そのために介護ソフトなどの適切なITツールが重要になってきます。

なお私たちが現在「介護のコミミ」で比較をしている介護ソフトというのは、介護にまつわる事務作業をデジタル化、効率化するためのツールです。主に、提供したサービスに対する報酬金額の計算をし、介護保険の自己負担分を引いた額を地方自治体や国に請求する一連のプロセスになります。このツールについて、ただ営業の人から勧められたものを何も考えずに導入するのではなく、きちんと比較検討して導入できるよう、第3者の客観的な口コミや、価格情報なども掲載しているのが「介護のコミミ」となります。

―介護業界自体が抱えている生産性という大きな問題解決に向け、その重要な一手となる介護ソフトの導入過程における課題解決を担う「介護のコミミ」。大きな業界課題に対して、クリティカルな現場の課題を発見できたのは、まさに早坂さんが業界経験者としての実体験があるがゆえに成し得ることですね。

はい。早坂の経験もふまえて言えることですが、介護ツールはプッシュ型の営業で売っていく傾向が強いようです。先程もありましたが、介護施設によって、どのソフトの機能がその施設の課題に見合っているかは異なってきます。それに対して、介護施設側は優しい方が多く、さらにお忙しいのと、現場の課題自体を把握しきれていなかったりする。そして、導入担当者の一番のインセンティブは、「失敗しないこと」。ですので、近隣の事業所やお知り合いの方の評判を聞いて、自社の状態を考慮せず比較も無しに購入される方が多くいらっしゃるのです。

私たちの「介護のコミミ」は、インターネット比較サイトという分野ではありますが、資料請求してくださった方には、スタッフから直接お電話を差し上げています。そして数多くの資料をご覧になった中でよりよい選択をしていただくために、現場の課題をお伺いして、最適なソフトをおすすめすることも行っています。

―Webサイトだけでなく、実際に「人」が介在してオンラインの顧客に向き合っている。この「人」を活用するという判断、とても悩むと思いますし重要な判断ですね。

スタートアップとして、スケールをさせていくという視点で考えるとあまりよくないのかもしれませんが…。しかし、これは介護施設だけでなく、ソフトを提供するメーカー側にとってのニーズも満たせると考えているのです。介護施設側は不要な商談を削って重要な数社の検討ができる。一方でメーカーも、受注確度の高い商談情報を厳選して送ってもらえるという、Win-winな関係を目指しています。

顧客対応しているメンバーには、対応した介護施設の特徴やいただいた感想を、マーケティングのメンバーにもシェアしてもらっています。それにより、社内全体でユーザーがどう「介護のコミミ」を認知、使用しているのか、逆に使わない層はどうして使わないのか、ということを明確にしていくことに役立っています。

―メンバーについて話が出たところで、仙台という地でスタートアップする際に、人材採用をどのように行ってきたかについてもお聞かせいただきたいです。そもそも那須さんは東京でお仕事をされていたと思いますが、ジョインした経緯はどのようなものだったのでしょうか?

これまで私自身は東京で仕事をしておりまして、前職はコンサルタントをしておりまして、将来的には起業したいという思いをもっていました。そして社会的に解決すべきペインがある大きな市場を選びたいと考え、ちょうど介護業界を対象に事業を検討していました。その頃に介護業界に詳しい人に話を聞きたいと思い、知人を介して紹介をしてもらったのが早坂でした。

事業の壁打ちをするなどミーティングを重ねる中で、介護業界の構造がかなり複雑なことや、業界のステイクホルダーの力学などを理解しました。そういった観点から見ると、すでに早坂が経営している株式会社GiverLinkの事業内容や築き上げた環境はポテンシャルが大きいなと感じました。そして1年くらい経ったある日、早坂が東京に来て、飲みながら、「うちの会社に来てくれないか」と誘われたのが入社のきっかけでした。

―きっかけは採用ではなく、そもそも那須さんの起業相談だったというのが面白いですね。そしてさすが早坂さん、口説くために東京に飲みにいくという実行力、一見シンプルですがこういったことをされると意思決定に大きく影響しますよね。

そうですね、実はこれはもう一人前例があって。「介護のコミミ」の開発責任者であるエンジニアの伊藤も、当初はランサーズ経由で業務委託をしてもらっていた中で、早坂が飲みに行って口説いたらしいです。今、伊藤は仙台に移住し活躍してくれています。

株式会社GiverLinkの経営陣。左から伊藤証開発責任者、早坂祐哉CEO、那須智樹COO、杉原裕CRO

―あえて「地方」という言葉を使いますが、地方に人材を集めるのは本当に難しいことだと思います。那須さんは、仙台の会社で働くということについて、入社前はどういう考えや気持ちがありましたか?

個人的にはあまりハードルには感じませんでした。私は出身が山形県ということもあり、仙台には馴染みがあったこともありました。しかしこれが福岡、名古屋となったとしても正直抵抗はなかったと思います。場所という働き方にも多様性や柔軟性がある社会になりましたし、私自身、働き方に依存せずに成果を出せると考えていますので。ただ、一般的に採用ということでは、職種によって難しいケースもあるかもしれません。当社では、例えばマーケターの採用は全国で行い、リモートで働く人材を採用しました。

―やはり、リモートワークなどを活用しながら働き方の柔軟性をいかに効果的に活用するかが地方の人材活用では重要なポイントになりますね。那須さんは実際に仙台で働かれてみて、良点や利点はいかがでしょうか?

そうですね。東京だとスタートアップも多く埋もれてしまいますが、仙台ですとまだまだスタートアップは多くなくそもそもスタートアップという言葉も珍しいという現状がありますので、それがゆえに注目されやすく、そして何かと気にかけてかわいがってもらえます。新聞に載せていただいたり、いろいろな機関とつながることができ相談にのっていただく機会も数多くあります。介護は自治体との連携も重要なので、ローカルだからこそ、つながりができ対話機会も多く関係性が深まるというのは嬉しい側面です。このように、東京だったらこうはいかないだろうなというケースは多々ありますね。

―あらためて事業の今後についてお伺いします。設立から3年半程度が経ち、今後に向けて新たに取り組んでいることを教えていただけますか?

「介護のコミミ」単体で見ると、2022年12月、プレシリーズAラウンドの資金調達によって着実に成長をさせることができ、サービスとしては安定してきました。しかし、まだまだ伸びしろはあると考えています。顕在層のユーザーに対してはもちろん、オフラインの潜在層を取り込む点ではまだまだとれるアクションがあると思っています。

次に、私たちの提供するサービスをより抽象化しますと、「介護のコミミ」で今対象としているのはICTツールです。ICTツールには、介護ソフト以外にも、見守りセンサー、インカムなどもあるのですが、私たちGiverLinkとしては、そもそも介護業界全体の業務課題を解決するプラットフォームを目指していますので、そこに向けた新規事業の開発なども行っています。

―1点目の「介護のコミミ」のオフラインの潜在層を取り込む、という観点ですが、そのために今後はマーケティングが重要ポイントになるということでしょうか。

個人的にはそうなると思っています。介護業界では、依然として友人や代理店からの紹介で比較検討をせず導入をされるオフラインの方々が多数いらっしゃいます。なぜオンラインで情報を見ないのかと考えた際、ネットで見てもわからないと諦めている層もいると思われます。介護ソフトは決して安い買い物ではないですし、一度導入するとそう簡単に置き換えられるようなものではありません。口コミ情報は「介護のコミミ」に載っているからひとまずは見よう、というように、一旦必ず「介護のコミミ」に見に来るという導線を、口コミを基軸にもう少し確立していく必要があると考えています。

―次に、2点目の介護業界全体の業務課題を解決するプラットフォームを目指す、ということについて、お話しできる範囲でもう少し教えていただけますか?

今、2023年中のローンチに向けて新たなサービスを仕込んでいる段階です。介護施設で使用する各種のツールや消耗品など網羅的に取り扱うプラットフォームを構想しており、仮説、検証、修正を行っているところです。介護ツールや介護関連商品に関して、現場が一番ほしいと思うであろう情報をいつでも網羅的に提供できるサービス、要は、介護のことならいつでもなんでも聞いてくださいというサービスづくりを目指しています。

―最後に、那須さんから見て、GiverLinkが次のステージに進むために、GiverLinkはどんな会社であるべきと考えていらっしゃるのかを教えてください。

私は、GiverLinkはもっとスタートアップらしくなっても良いと思っています。それはつまり数字にコミットするということです。和を重んじるカルチャーは素晴らしいですし、そのなかでチャレンジもできていますが、今後成長するには当然〝成長痛〟もあるでしょう。その中で「これを達成するぞ!」と強く団結できれば、さらにすばらしい組織になれると思います。まずは私たち経営陣がOKRの次の目標を明確にして、ベクトルを示し、その重要性を共有しなければいけません。組織づくり、社員との対話、説明責任。それらが、私が今後とるべきアクションだと感じています。

―協調や連携といったチームの良さだけではなく、スタートアップとして高い目標に挑戦し達成に執着していくチームの強さもあらためて必要ということですね。様々な角度からお話しお聞かせいただきましてありがとうございました。介護という大きな社会課題を解決するためには社外との様々な連携も必要になると思いますのでこの記事もその一役を担うことができればと思います。

そうですね。ざっくばらんに、介護に関することでお困りのことや、こういったことで何か一緒にできないか、などお気軽にご連絡いただければ、柔軟に検討し様々なことができると思いますので、今後、さらに多くの皆様と広く協業を実現していけることを願っています。

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