INTERVIEWインタビュー
【 仙台市長 】 新たな拠点「仙台スタートアップスタジオ」から世界を変えるスタートアップを生み出す
仙台市は、仙台のみならず東北全体のスタートアップ・エコシステムの発展に向け、様々な起業支援施策を生み出し、積極的に取り組んでいます。
グローバルチャレンジするスタートアップ、大学研究開発型スタートアップ、社会課題解決型スタートアップなど、この東北の地には様々な事業があり、そして起業家がいます。また、震災を経た経験があるからこその、地域に貢献しようとする強い想い持った起業家も増えています。
こうした様々なタイプの東北の起業家はどういう想いを持ち、どんなキッカケで、どのような挑戦や苦労を経験しながら成長し続けているのか。本シリーズでは、起業家にインタビューし、そのストーリーを解き明かしてきました。
今回は、今年度最後のインタビューとして、仙台・東北のスタートアップ支援に取り組む仙台市の思いやビジョンを聞くべく、郡和子市長を取材いたしました。
Interviewee
仙台市長
郡 和子
昭和54年4月 東北放送株式会社入社
平成17年4月 東北放送報道制作局部長
平成17年9月 衆議院議員選挙で初当選(以降、4期連続当選)
平成23年9月 内閣府大臣政務官、東日本大震災復興対策担当大臣政務
官・宮城現地対策本部長
平成24年2月 内閣府大臣政務官兼復興大臣政務官
平成29年8月 第35代仙台市長(1期目)に就任
令和3年8月 第36代仙台市長(2期目)に就任
Interviewer
仙台市スタートアップ支援スーパーバイザー
鈴木 修
大学在学時にマーケティング及びEC領域で起業。その後、株式会社インテリジェンスの組織開発マネジャー、株式会社サイバーエージェントの社長室長、グリー株式会社のグローバルタレントディベロップメントダイレクターを経て、2014年に株式会社SHIFTの取締役に就任し国内及び海外グループ会社全体を統括。2019年には株式会社ミラティブでのCHRO(最高人事責任者)、2021年からはベンチャーキャピタルDIMENSION株式会社の取締役兼ゼネラルパートナーに就任。2013年TOMORROW COMPANY INC. / TMRRWを創業し、アドバイザーや社外取締役として、経営や組織人事の側面からスタートアップへのIPO支援や上場企業へのチェンジマネジメントを支援。国内外でのエンジェル投資実績も多数。2023年仙台市スタートアップ支援スーパーバイザーに就任。
―それでは今年度最後となるインタビューとして、新しく完成したスタートアップのためのワンストップ支援拠点「仙台スタートアップスタジオ」で、郡市長にインタビューさせていただきます。郡市長、よろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
―仙台市スタートアップ支援スーパーバイザーとして、約1年間仙台市の様々なスタートアップ支援に関わらせていただきました。その中で、仙台市は「学生・若者のアントレプレナーシップ醸成」にかなり力を入れて取り組まれている点が特徴的であると感じました。令和5年度からスタートした「仙台グローバルスタートアップ・キャンパス(通称:SGSC)」はまさにその象徴かと思いますが、このプログラムを新たに取り組まれて率直な感想はいかがでしたか?
仙台・東北の学生・若者の皆さんに、若いうちにグローバルな視野でスタートアップに挑戦してほしいとの思いから始めた「仙台グローバルスタートアップ・キャンパス」ですが、定員100名に対して、なんと300名の応募がありました。それだけこの地域には、グローバルに挑戦したいという意欲を持った学生がたくさんいらっしゃることを実感しました。
―正直、この応募数には私も驚きました(笑)東北大学青葉山キャンパスで市長と登壇させていただいた特別イベントでも、たくさんの学生が集まっていたことが印象的です。
プログラムに参加された110名は、オンラインで海外のアントレプレナーシッププログラムを受講し、さらに選抜された20名がボストン・シリコンバレーに派遣され、1週間の現地プログラムに参加されたのですよね?これは参加された学生にとって非常に貴重な経験になったことと思います。参加学生からはどんな声があったのですか?
本当に皆さん素晴らしい学びを得て帰ってきてくれたんだなと実感しています。20名の学生・若者の皆さんは、ハーバード大学はじめ現地のイノベーション拠点を訪問し、色んな刺激を受けたと思います。学生・若者の皆さんへ、現地の空気に触れ、ビジネスアイディアをブラッシュアップする機会を提供させていただきましたが、参加された皆さんの感想の中で、「アメリカの起業家や学生達に直接触れ合い、事業を起こすことで実現したい世界に向けた高いモチベーションやチャレンジ精神、積極的に動くことの重要性を学ぶことができ、今後の起業に向けて非常に貴重な経験ができた」や、「同じ志を持つ仙台・東北の仲間たちと出会う機会ができて良かった」という声をいただき、スタートアップの先進地域に触れた若者達から、世界に向けて大きなイノベーションをもたらすインパクトのある若手起業家が誕生するきっかけになると良いなと感じています。
―言葉を選ばずに言うと、本当に「贅沢なプログラム」ですよね。私は仙台出身で、大学は東京だったのですが、もし当時このプログラムがあったら仙台に残っていたんじゃないかと思います。おっしゃっていた参加した人たち同士のネットワーキング、同じ刺激を共に受けた仲間ができたことは、これから起業を目指す学生・若者にとって大きな財産になったと思います。このプログラムは今後も継続されていくと思うのですが、今後の視点としてはいかがでしょうか?
ここ仙台は、「学都」と呼ばれ、多くの大学等があり、若い世代が集まってくる街です。今回このプログラムを通してこれほどスタートアップに関心があり、かつグローバルな視点で起業にチャレンジしたいいう学生・若者が多いことに本当に驚きと心強さの両方を感じました。このプログラムを通じて是非次世代のイノベーションを担うグローバル人材をこの地から生み出していきたい、いや、生み出していけるんじゃないかという確信に近いような気持ちになれました。だからこそこのプログラムを続けていきたいと思っています。
―このプログラムを通して毎年こうやって若い起業家や起業家予備軍が増えていくような、まさに仙台のスタートアップの文化醸成に繋がっていく取組みだと思います。
このプログラムに挑戦しようという意欲を持った若い世代の数の多さを実感させていただいて、みんなが起業という世界で挑戦できる環境を更に整えていかなければならないと思っています。
―若い世代への起業の後押しを支援していく仙台市の意気込みが強く感じられました。
(2023年7月8日に開催されたSGSCキックオフイベントの様子。ここから多くの学生・若者が海外のアントレプレナーシッププログラムに挑戦した。)
―ここまで、仙台市の若い世代への支援についてお聞かせいただきました。加えて仙台には東北大学という素晴らしい研究機関があり、仙台市のスタートアップ支援においても東北大学をはじめとする研究開発型スタートアップへの支援がフォーカスポイントになると思うんですが、そのあたりいかがでしょうか?
仙台には、世界レベルの研究機関である東北大学をはじめとした高等教育機関が集積しています。革新的な研究技術の社会実装により、社会に大きなインパクトをもたらすスタートアップが輩出できると考え、大学発スタートアップへの支援を強化してまいりました。本当に素晴らしい技術を持った方々が輩出されておりますので、我々も支援を続けていきたいと思っています。
―このインタビュー企画でも、数多くの大学発スタートアップの代表・CEOを取材させていただきましたが、本当に素晴らしい大学発スタートアップが数多くいらっしゃり、競争力が高いと改めて実感しました。そんな大学発スタートアップへの支援を具体的にどのように強化したのですか?
今年度は大学発スタートアップや研究者の支援者数を大幅に増加しました。ただ支援対象を増やしただけではなく、事業のステージに応じたきめ細かな支援を行える体制を整えました。例えば、ビジネスアイディアを持っているステージでは、アイディアを具現化するための支援、創業直前のステージでは、投資家や先輩経営者によるビジネスプランのブラッシュアップ、成長ステージでは、人材獲得や資金調達につなげるための伴走支援、そして、ロールモデルとなるようなミドルステージのスタートアップでは、各社のニーズや課題に応じたカスタマイズ型の支援と、幅広いステージのスタートアップに対する支援環境を整えました。
―私も仙台出身ですが、仙台にはきめ細かな方が多いなと(笑)今のお話を伺って、まさに仙台市職員の皆様のきめ細かさが支援内容に活かされているなと感じます。これだけの支援を展開されて、実際に支援を受けた方々からも好評だったのではと思いますが、そのあたりはいかがでしたか?
ありがたいことに、「来年度も続けて欲しい」というような声をたくさん頂戴しているところです。例えば、「首都圏人材・ベンチャーキャピタルとのマッチング事業」については、今年度から新たに取り組んでいるものですが、スタートアップの皆さまからご好評いただいています。この事業は「地方では、専門性が高い研究シーズをビジネスに結びつけることができる人材が限られている」とのお声から取り組んだ事業で、仙台・東北の優れた研究者と、各研究者の研究領域に特化したビジネス人材とのマッチングイベントを首都圏で3回開催し、合計100名以上の人材、10社以上のベンチャーキャピタルにご参加いただきました。参加した研究者の中には、既に事業の伴走相手や将来の経営幹部候補を見つけた方がおり、事業化に向けた後押しをすることができました。
―大学発スタートアップという専門性の高い領域への支援を展開する中で、仙台だけにとどまらず、首都圏のネットワークも活用しながら支援内容を充実させているのですね。
2024年3月15日に行われた「TGA Festival 2024」の様子。仙台市で支援した様々なステージの研究開発型スタートアップや研究者がプレゼンした。
―ここからは新しくできた仙台スタートアップスタジオについて話を移したいと思います。まさにここがハブになっていくイメージを持っていますが、まずは、この拠点ができて率直な感想や意気込みをお聞かせ下さい。
まずはこれまでの本市の取組みを通じて、様々なステージで多様な課題を抱えるスタートアップや、ベンチャーキャピタル等の支援者をはじめ、本市として多くのネットワークを構築することができたと思っています。今度は仙台にそのような方々を繫ぐ場をつくることで、スタートアップと支援者両方に大きな効果をもたらすことができると考えています。仙台スタートアップスタジオがワンストップの支援拠点として機能することで、スタートアップに興味がある、挑戦してみたいという多くの方々にとって裾野が広がっていく、そして様々なスタートアップに刺激を与えていくような、場所というだけではなくて地図になるような拠点として、つまり地域全体を盛り上げていく拠点として機能させていきたいと思っております。
仙台スタートアップスタジオの機能。様々な支援をワンストップで提供していく。
―私もメンターズボックスとして、仙台スタートアップスタジオに関わらせていただきます。メンターズボックスには首都圏等で活躍されている皆さんにもご加入いただき、体制を整えています。この仙台スタートアップスタジオに、どんな方々に集まってほしいと思いますか?
様々なプレーヤーが仙台スタートアップスタジオに集っていただいて、交わることで、新たな出会いやイノベーションが生まれていくんじゃないかと。また、仙台スタートアップスタジオから、いわゆるとんがった、世界を変えていくぞというようなスタートアップが誕生していくことを期待しています。昨年、シリコンバレーやニューヨークにおいてスタートアップ拠点を訪問し、スタートアップを目指す方々が集い切磋琢磨する環境の重要性を強く感じました。これからビジネスを始めたいという方から、世界へと挑戦するスタートアップ、そしてスタートアップを支援する方々が気軽に足を運び、つながることができる拠点にしてまいりたいと考えております。
―市長から「とんがったスタートアップが出てきて欲しい」との言葉がありましたが、とんがりを大事にすることはスタートアップにとってとても重要であると私も思っています。これまでのインタビュー企画でも、下は20代から上は60代以上の方が経営されていて、事業領域も「宇宙」・「半導体」のような専門性が高いものから、「カブトムシ」・「水産業・海」など東北らしいものもあり、多様なとんがりが集まる場として仙台スタートアップスタジオが機能していくんだなと思っています。
仙台・東北の支援者の皆さんが様々なかたちで連携し、豊富な支援メニューが展開されていくことと思います。私も自分自身の経験を基に、仙台・東北からスタートアップとして挑戦する皆さんを全力で後押しさせていただく所存です。最後に、本インタビューを見てくださった読者の皆さんへメッセージをお願いいたします。
スタートアップに挑戦する皆さんには、ぜひ仙台スタートアップスタジオを活用していただき、先輩起業家や同じ志を持つ仲間と出会い、刺激を受け切磋琢磨しながら事業を成長させていただきたいと思います。事業の立ち上げや成長の過程では、様々な課題に直面することと思います。たとえ困難や失敗を経験したとしても、そこから得た経験を活かしてチャレンジを続け、最後には大きな成功に繋げていく、そのような挑戦を後押しできる環境を仙台スタートアップスタジオから作っていきたいと思いますので、多くの皆さんとこの場で繋がり、イノベーションを生み出していくことを心から楽しみにしております。
東北起業コミュニティ「TOHOKU STARTUP BIOTOPE」参加者募集中!
仙台市が運営する「TOHOKU STARTUP BIOTOPE」は、東北でスタートアップを支援したい人、新しいことに挑戦したい人・関わりたい人が集うオンラインコミュニティです。400名以上が参加し、起業家とのマッチングや起業相談、イベントなどを通じた交流が発生しています。