INTERVIEWインタビュー

【 株式会社manaby 】 宮城県創業の上場起業manaby、ミッションに真っ直ぐな経営スタイル

株式会社manaby|宮城県創業の上場起業manaby、ミッションに真っ直ぐな経営スタイル

仙台市は、仙台のみならず東北全体のスタートアップ・エコシステムの発展に向け、様々な起業支援施策を生み出し、積極的に取り組んでいます。
グローバルチャレンジするスタートアップ、大学研究開発型スタートアップ、社会課題解決型スタートアップなど、この東北の地には様々な事業があり、そして起業家がいます。また、震災を経た経験があるからこその、地域に貢献しようとする強い想い持った起業家も増えています。
こうした様々なタイプの東北の起業家はどういう想いを持ち、どんなキッカケで、どのような挑戦や苦労を経験しながら成長し続けているのか。本シリーズでは、起業家にインタビューし、そのストーリーを解き明かしていきます。
今回は、障害福祉の領域において逆転の発想で事業をスタートさせ、2022年にはTOKYO PRO Marketに上場し、ミッションドリブンで様々なサービス展開に挑戦し続けている宮城県創業の株式会社manaby代表取締役社長である岡﨑衛さんを取材しました。

Interviewee

写真:岡﨑 衛

株式会社manaby

代表取締役社長 岡﨑 衛 さん

1987年仙台市生まれ。高校時代より起業を志し、宮城大学事業構想学部に進学。障害福祉サービス事業を行うベンチャー企業でのインターンを経て、大学3年次の2009年に起業、就労支援事業所を運営する。2013年には東北大学大学院にてデザイン思考による経営学を学び新しい就労支援の在り方を構想し、2016年新しい形の就労移行支援事業所manabyを設立。一人ひとりが自分らしく働ける社会を目指して挑戦中。

Interviewer

写真:鈴木 修

仙台市スタートアップ支援スーパーバイザー

鈴木 修

大学在学時にマーケティング及びEC領域で起業。その後、株式会社インテリジェンスの組織開発マネジャー、株式会社サイバーエージェントの社長室長、グリー株式会社のグローバルタレントディベロップメントダイレクターを経て、2014年に株式会社SHIFTの取締役に就任し国内及び海外グループ会社全体を統括。2019年には株式会社ミラティブでのCHRO(最高人事責任者)、2021年からはベンチャーキャピタルDIMENSION株式会社の取締役兼ゼネラルパートナーに就任。2013年TOMORROW COMPANY INC. / TMRRWを創業し、アドバイザーや社外取締役として、経営や組織人事の側面からスタートアップへのIPO支援や上場企業へのチェンジマネジメントを支援。国内外でのエンジェル投資実績も多数。2023年仙台市スタートアップ支援スーパーバイザーに就任。

―まず、事業内容について教えてください。

株式会社manaby(マナビー)代表取締役社長の岡﨑衛です。manabyは、「一人ひとりが自分らしく働ける社会をつくる」ことをミッションに2016年に創業し、障害のある方の就労移行支援からスタートしました。その後、就労継続支援B型事業所manaby CREATORS、オンラインでITスキルを学びながら働き方について相談ができるmanaby WORKS、そしてシステムエンジニアリングサービス(SES)事業であるmanaby TECHNOの4つの事業を展開しています。

就労移行支援と就労継続支援B型事業所は、国の障害者総合支援法に基づく、障害のある方に向けたサービスです。しかし私たちは、あくまで誰もが自分らしく働けるような社会を目指すことを大前提の考え方としているので、本来的には障害がある方もない方もすべてが対象と捉えています。どんな人でも生きづらさを感じることはありますし、人生のどこかのタイミングで精神疾患にならないとも限りません。社会にあわせてうまく生きようと頑張りすぎるのではなく、自分らしく生きることができる未来を目指して取り組んでいます。

――障害のある方を支援する事業を様々展開していらっしゃるのだと思っていましたが、そうではなく、自分らしく生き自分らしく働きたいと考えている方々すべての方の支援を視野にいれて事業展開されていらっしゃるのですね。

そもそも岡﨑さんがこの障害福祉の分野に出会ったきっかけ、そして起業された背景を教えていただけますか?

私は高校までサッカー一筋でしたが、将来どう生きたいか、ということを考えたときに、後悔なく自分が思うように生きようと考えて、とにかく起業家になろう、と決めました。当時はいわゆる起業家と言われる方たち、三木谷浩史さんや柳井正さんが表に出て活躍していた頃で、その影響もあったと思います。仙台出身ですので、近くの宮城大学で開かれていた起業を目指す人向けのイベントに高校時代から参加をし、宮城大学の事業構想学部(現・事業構想学群)を受験して進学しました。大学3年で起業しよう、と強く決めていたので、1年生の時から、授業の他にも起業をした人の話を積極的に聞きに行っていましたね。その中で、この会社で学びたいと思える企業に出会い、インターンをすることになりました。そしてその企業の事業が障害福祉の分野だったんです。

―ということは、障害福祉分野への関心より先に、まずは起業への関心があったんですね。インターンから起業はどのような流れでしたか?

その会社でのインターンはとにかくとても厳しい現場でした。私以外の学生はみんな途中で辞めていったのですが、私は起業しようと思って飛び込んだ場所だったので、辞めるという選択肢はなく、やり続けました。そしてさまざまな業務を体験していくにつれ、これまで全く接点のなかった障害福祉の分野を身近に感じるようになり、大学3年生の2月、実際に会社を作り、施設運営を始めました。まずは事業に集中しようと、4年生の時は1年間休学して事業のことだけに取り組みました。

―お話しされていらっしゃる様子からインターンシップの厳しさをお察しします(笑)。そういった厳しいインターンシップをやり続けたり、そして起業すると決めていた起業を学生時代にしっかりと実現される岡﨑さんの強い行動力やメンタリティには、何か原体験のようなものがあったのでしょうか?

元々の性格だと思います。あと、社員からは「鈍感」と言われることもあるので、そうかなあ?と(笑)。先ほどお話しした大学時代の創業の後に再度創業した会社がmanabyになるのですが、manabyは最初から必ず上場させると決めていました。根拠はなくても必ず実現できる、と自分で信じて実行できる強さは確かにありますね。

―鈍感力、根拠のない自信、成功する起業家からはそういった資質の重要性を聞くことが多くありますので、岡崎さんにも起業家に必要な資質が備わっていたのだと思います。

2016年に第二創業としてmanabyをスタートされましたが、そこにはどういった思いや考えがあったのですか?

学生時代の第一創業で運営していた施設でも、障害のある方の就労支援をしていたのですが、実際にそうした方が就職をすると、最初は元気に通うんですが、その後また体調が悪くなって退職してしまう、といったことが結構あったんです。

その就労が続かない理由は、ほとんどが人間関係です。その人間関係に悩まれている方々に対して、多くの支援スタイルは、どうにかしてコミュニケーションスキルを上げて人間関係を構築できるように解決しようとする支援でした。ですが、私はそれとは違う解決方法があってもいいのではないかと思うようになりました。例えば、無理にコミュニケーションスキルを上げて人と接点を多く持たせるのではなく、その人は今のままで良いのではないか、その上で人間関係を最小限にして在宅で仕事をするなど、なるべく人とコミュニケーションしないで済む働き方という選択肢を提供できないか、と考えたのです。そこで、在宅で働けて在宅で学べるeラーニングのプラットフォームを作ることを考え、2015年にグロービスさんが主催するビジネスコンテストでプレゼンをし、賞をいただきました。これがmanaby創業のスタートとなり、その後、事業を加速させていったのです。

―悩んでいる人を変えるのではなく、人間関係を減らすというように環境を変えるという選択、まさに逆転の着眼点ですね。

このアイディアには自信がありましたし、実際に「在宅で働きたい」と希望される利用者さんがいらっしゃったという事実もアイデア実現の後押しになりました。しかし、最初はなかなか人が集まりませんでした。在宅で働くことが社会ではまだメジャーではなかったことや、障害者の引きこもりを加速させるのか、といったような間違った認識をされている外部の声もあったりして…。そのためマーケティングにもかなり力を入れることで、少しずつ認知を増やし、そして認識も変えていくことができました。

念のためお伝えさせていただきますが、私たちは、決して在宅を推奨しているわけではないのです。実際に、現在でもeラーニングを希望される方の7割が自宅ではなく事業所に通った上でeラーニングすることを選んでいます。就労でもオフィス勤務を選択される方が8割近くになります。通えるのであれば通っていただくのが良いことに違いはありません。しかしそれだけでなく、在宅という選択肢を提供しているのが私たちの支援であり、そこに大きな意味があると考えています。

―あくまでも、その人にフィットしたスタイルで学び働けるように支援しているということですね。

manabyの創業以降、いくつか事業を展開されてこられましたが、一つひとつの事業は岡崎さんの発案で立ち上げてきているのでしょうか?

私の発案ではありますが、着想から実現までは様々な意見をいただきながら相当な時間をかけて立ち上げています。例えば最近だとSES事業を開始しましたが、これも社員から最初は猛反対が出たものでした。反対意見はありがたいです。それによって事業が良くなっていくと思うので。また、社外取締役にも厳しく客観的に意見をもらっています。やるならちゃんとmanabyのミッションに沿った、意義のある形でやるべきだということで、時間をかけて作っています。

―着想に対して反対も含めて意見をもらうことで、ミッションや意義に則した事業に仕上げているプロセスはとても大切だと思います。

事業をリードする経営チームについてもお伺いしたいのですが、取締役副社長の方との出会いや役割分担について教えていただけますか?

副社長の萩原博人は、もともとはmanabyの就労支援施設のフランチャイズオーナーだった者です。ですので、実際の仕事力ももちろん知ってはいましたが、萩原とはマインドのところが一致していたことが一緒にmanabyを経営していくパートナーとして迎え入れる意思決定した大きな要因です。私はこの事業に長く携わりたいと考えていますし、質的な改善や、周辺事業への拡大をむやみに急がず、ミッションに則して着実に意義ある形で進め成長させ続けていきたいと考えています。萩原とはこのような考え方の根っこが合っていると感じ、2022年7月より、正式に副社長として迎え入れ、事業部門と管理部門の実質的な執行のトップを担ってもらっています。お互いコミュニケーションを大切に頻繁にとりながら、経営や現場の課題を相談しあっています。ちなみに、萩原は関西人で、いい意味で楽観的なタイプですね(笑)。

―フランチャイズオーナーからの副社長、という関係性でしたか。経営チーム人材だからこそ、能力だけではなくマインドを重視した人選はものすごく重要ですよね。先ほど、副社長の萩原さんとの対話を大切にされていると話にでましたが、manabyさんは、会社全体として社内の対話を大切にしていらっしゃる印象です。社員数も増えてきているなかで、社内の組織文化はどのように醸成されているのでしょうか?

私としては、社員数が数百人、千人とどれだけ会社の規模が大きくなっても、全体を俯瞰してみた上で、おや?と気になることがあればすぐに社員と直接コミュニケーションをとりにいけるようなフラットな関係性を大事にしたいと思っています。毎月月初にキックオフ会議を実施していますが、その会議の最後にコミュニケーションタイムというものがあります。オンラインでランダムに3名のグループが作られて会話をします。私も新入社員の方と、初めて会話する場になっていて、全社員がコミュニケーションの取りやすい環境を作り出しています。また、先程の新しい事業を検討する際に、社員が率直な意見、時には反対意見が言いやすいように、私自身が対話の仕方にも気をつけています。当たり前のことではありますが、まずは意見をしっかり聞く、ということを大切にしています。

―インタビューのはじめのところで、自分らしく生きる未来を目指しているとおっしゃっていましたが、manabyさん自身がそれを体現されようとしているのだと感じました。

続いて、上場関連についてお伺いされてください。2016年の創業から着実に施設数を増加させ、2022年4月に東京証券取引所のプロ向け株式市場TOKYO PRO Market(TPM)に新規上場をされました。上場のタイミング、TPMを選んだ背景などを教えていただけますか?

当初はTPMではなくマザーズへの上場を考えていたのですが、同業界の経営者の先輩たちのアドバイスを受け、背伸びをしてマザーズを目指すよりTPMが良いと判断しました。今振り返ってもこの選択は本当に良かったと思っています。最初にお話したように、上場は会社設立前から決めていたことだったので、タイミングとして創業から5年10ヶ月で上場できたことはほぼイメージ通りか、もしかしたらあと半年くらい早くたどり着けていたのではないかとも思います。

―TPMに上場される前は、資金調達はどのようにされていらっしゃったのでしょうか?

資金調達に関しては、ほぼほぼ身内です。創業時から支援いただいたエンジェル投資家の方、そしてmanabyのフランチャイズのオーナーさんたちが株主になってくださいました。オーナーさんは利害が一致しますから株主になっていただくことは適切でした。いわゆる外部からエクイティという形で調達したのはグロービスさんのみで、あとは基本的にはデットです。

事業の速度を求めることも重要だとは思いますが、外部から決められたペース、例えばファンドの期限に基づいて事業を行うことは良くないのではないかと考えていました。私たちのミッションに向かいながら、私たちが重視するゴールをしっかり達成させることを最優先に判断をしていきたい、と考えていましたので、ベンチャーキャピタルさんからの資金調達はあまりして来ませんでした。

―基本的にはデッドを活用しながら、利害一致するフランチャイズオーナーさんに株主になっていただくという資金調達は事業領域にフィットしたファイナンススキームですね。

創業から上場、そしてさらなる挑戦を続けている岡﨑さんですが、日本における障害者雇用を取り巻く環境をどう評価されますか?

私は、基本的には良い方向に変化していると考えています。労働人口全体の減少という背景もあると思いますが、障害者の法定雇用率が上がっていること、企業側もただ雇用するだけでなく、どう活躍してもらうかという本質的な考え方にシフトしてきていることが評価できると思います。

また、社会全体として、障害や、精神疾患などに引け目を感じて隠すのではなく、比較的オープンすることを受け入れられるようになってきていることも、世の中のポジティブな変化の兆しを感じますね。

―確かに、心療内科やカウンセリングに通うことなど、メンタルマネジメントに対するハードルが下がってきていることは私自身も感じています。逆に、ここはもう少し課題だなと思われることはありますか?

就労継続支援B型事業所は、かつては知的障害のある方が通い、単純作業に従事することを主軸としており、今もその流れを引き継いでいる事業所が多々あります。ただ、今やはり世の中、精神疾患の方が増えてきている現状で、必ずしも同じことを繰り返すだけの単純作業が合っているかというと、そうでない部分もあると思います。

例えば、単純作業には向いていなくても、すごい絵を描く才能がある、という方もいらっしゃいます。絵の世界でいわゆるメシが食えるようになるかと問われれば、それは難しいかもしれません。しかし、それをどうにか少しでも経済的価値を生めるようにできないか、ということを考え、私たちはmanaby CREATORSという事業をつくりました。素晴らしい才能をもつ人たちが、社会に認められる体験をし、自尊心をもつことができれば、絵でなくても、何か別の仕事に挑戦してみようと思えることがきっとある、そう考えています。

―まさしく、多様な可能性や才能を大切にすることも含めて、自分らしく生きることのサポートですね。今後、岡﨑さんがやりたいと思っていらっしゃることを少しお伺いできますか?

私はやりたいことが無数にあるタイプなので、manabyのミッションに通じる範囲でいろいろなことに挑戦したいと思っています。今はやはり働き方の課題に特化しているので、それを超えて、衣食住、学ぶ、生きるということそのものの選択肢を増やすことに挑戦したいですね。起業家の中には、短期的に成果を出して事業を売却し、後は悠々、という考え方もあると思いますが、私自身はやれる限り長くやりながら、着実にやりたいことを実現したいと思います。

―最後に、岡﨑さんのように大学生のうちから起業を考えている方、また障害福祉などソーシャルインパクトのある分野で起業をしたいと考えている方に向けて、メッセージをお願いします。

大学生にお伝えしたいことは、起業するなら、しっかり覚悟を持って起業してほしい、ということです。覚悟さえあれば、どれだけ困難に直面しても決して逃げることなく、たとえば私のように鈍感なメンタルでなんとしてでも乗り越えながら、とにかく成功までやり続けることができるはずです。

ソーシャルな分野で起業したい方にお伝えしたいのは、想いと現実のバランスをとることです。私は、基本的には現実派です。サッカーを真剣にしていたころから、試合で強豪チームにボコボコにやられる。毎日、毎週、その現実と向き合い、現実に改善できることを考え、実行し続けるしかなかった。それと同じで、社会に存在するソーシャルな問題を解決できることも現実の中にしかないんです。社会貢献への熱い想いを持ちながらもしっかり現実を見て、しっかりと現実に向き合うことを大切にしていただきたいと思います。

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