INTERVIEWインタビュー

【 株式会社TOMUSHI 】 東北から世界へ、カブトムシと社会課題に挑むスタートアップ創業背景

株式会社TOMUSHI|東北から世界へ、カブトムシと社会課題に挑むスタートアップ創業背景

仙台市は、仙台のみならず東北全体のスタートアップ・エコシステムの発展に向け、様々な起業支援施策を生み出し、積極的に取り組んでいます。
グローバルチャレンジするスタートアップ、大学研究開発型スタートアップ、社会課題解決型スタートアップなど、この東北の地には様々な事業があり、そして起業家がいます。また、震災を経た経験があるからこその、地域に貢献しようとする強い想い持った起業家も増えています。
こうした様々なタイプの東北の起業家はどういう想いを持ち、どんなキッカケで、どのような挑戦や苦労を経験しながら成長し続けているのか。本シリーズでは、起業家にインタビューし、そのストーリーを解き明かしていきます。
今回は、好きなことを事業として実現し、地域課題解決から資源や環境の課題解決まで大きなスケールでの挑戦している秋田県創業の株式会社TOMUSHIの社長である石田さんを取材しました。

Interviewee

写真:石田陽佑

株式会社TOMUSHI

代表取締役CEO 石田陽佑 さん

秋田県大館市生まれ、25歳の双子の弟。
青山学院大学在学中にスタートアップへのインターンを経て渋谷で起業し失敗。その後秋田県へ戻り2018年からカブトムシの研究に没頭。
2019年に株式会社TOMUSHIを設立。初期費用は祖父祖母から出してもらいガレージからスタート。
ムシキング世代に育ち、大好きなカブトムシの力を日本中、そして世界に広めるため、日々邁進中。

Interviewer

写真:鈴木修

仙台市スタートアップ支援スーパーバイザー

鈴木修

大学在学時にマーケティング及びEC領域で起業。その後、株式会社インテリジェンスの組織開発マネジャー、株式会社サイバーエージェントの社長室長、グリー株式会社のグローバルタレントディベロップメントダイレクターを経て、2014年に株式会社SHIFTの取締役に就任し国内及び海外グループ会社全体を統括。2019年には株式会社ミラティブでのCHRO(最高人事責任者)、2021年からはベンチャーキャピタルDIMENSION株式会社の取締役兼ゼネラルパートナーに就任。2013年TOMORROW COMPANY INC. / TMRRWを創業し、アドバイザーや社外取締役として、経営や組織人事の側面からスタートアップへのIPO支援や上場企業へのチェンジマネジメントを支援。国内外でのエンジェル投資実績も多数。2023年仙台市スタートアップ支援スーパーバイザーに就任。

―それではまずは、事業内容について教えてください。

株式会社TOMUSHI代表取締役CEOの石田陽佑です。ペットとしてのカブトムシ販売から事業をスタートさせ、現在は秋田県と東京を拠点に、世界の廃棄物や食糧難の問題をカブトムシで解決することを掲げています。

TOMUSHIの取り組みは、地域や企業において、これまで燃やすことでCO2になっていた廃棄物を、カブトムシで資源に変えるというもので、具体的には、秋田に多いキノコ農家から大量に廃棄される菌床などの有機廃棄物を、TOMUSHIの技術で加工し、カブトムシのエサにしています。そうして育てたカブトムシの生体は、販売するほか、粉末にして魚や鳥のエサや創薬に使うといった活用が期待できます。また、糞は肥料として再利用します。

これをビジネスとして回しながら、子ども向けのSDGsの教育イベントも開催しています。ゴミを食べて育つカブトムシに触れながら、環境問題にも意識を向けてもらうものです。

カブトムシの写真

―カブトムシの販売から資源や環境問題への発展、この辺りはこの後じっくり聴かせていただきたいと思います。ここでビジネスモデルについてもポイントを教えていただけますでしょうか?

僕たちはカブトムシを育成するプラントを企業に販売します。企業には、そのプラントを使って自社のゴミを処理しながらカブトムシを育ててもらいます。その後、育てたカブトムシと糞を、僕たちが手数料を引いて買い取るという仕組みで、買い取ったカブトムシ自体も利益を生み出す構造になります。

ゴミや糞までを活用するため経費はほとんどかからず、現在1億円程度の売上がほぼすべて利益のような状態を達成していることで、赤字になることはないモデルを確立しています。

―ほぼ経費がかからずに収益を上げるということは、ある意味でビジネス的にもエコですね。早速原点のところからお伺いしたいと思うのですが、石田さんが起業をした背景やキッカケを教えてください。

これは僕の生い立ちに関わってくるんですが、僕は父とそりが合わず、大ゲンカをして14歳くらいに家出をしました。その後、母方の祖父母に育ててもらったんです。ちなみに僕には双子の兄(石田健佑)がいて、今秋田県大館市の市議会議員もしながら一緒にTOMUSHIを経営していますが、その兄も祖父母の元で育ちました。

起業をしたのは、この祖父母=石田家の初代が事業家だったことが大きいです。小さい頃、夏休みは必ず祖父母のところで虫取りをして遊んだりしていましたが、この時から石田家はこうやって栄えたんだ、というような話を祖父から聞かされていたので、うちの先祖が事業できたんだから、自分たちもできるだろう、みたいな影響はあったと思います。

―結果論かもしれませんが、もともとの家系からくる流れが背景にはあったんですね。起業や経営というものが身近なところにあった、というのは大切ですね。事業としてカブトムシで起業したのはなぜだったのでしょう。

これにはいろいろな経緯があり、実は僕と兄は、TOMUSHIより前に別の事業で一度起業をしたんですよ。学校の枠にはまれなかった僕は、高校卒業後に一度社会に出て、猛勉強をし、青山学院大学に入学。一方、兄は僕とは正反対の勉強ができるタイプで、東京メトロに就職、その後合同会社DMM.comの亀山敬司会長の元、経営企画室で働いていました。

久しぶりに兄と会ったとき、起業のことが話題になりました。そして渋谷で投資家が開いていたイベントに2人で参加し、「こんなおもしろそうな世界があるんだ」とイメージが膨らんだのです。僕は大学に通いながらベンチャーのインターンをしていましたが、それもすごくおもしろくて、俺が求めてたのはこれだ!と。すぐに大学を辞め、優秀な人材を集めて5人で起業しました。

ところがこの時は一つ失敗をしました。株式を5人のメンバーで20%ずつ等分にしてしまったんです。事業に問題はなかったんですが、人間関係で揉めて、1期目の決算も迎えずに解散しました。

結局兄と2人秋田に戻り、次起業するとしたら、本当に心から好きなことをやって、もし失敗したとしても、経済的には失敗だったけど、やったことはプラスだったと思えることをやろうと話をしました。

で、秋田で細々とした仕事をしながらも、夜になると2人で昔のように虫取りに出かけたりしていました。でもこれが全然取れない。悔しくなって、この際ヘラクレスオオカブトが欲しい!となり、でもお金がないから、祖父母に頼んでオスとメスを1匹ずつ買ってもらいました。3万円くらいしたと思います。単純に趣味で買ってもらったんですが、これが、交尾させたらめちゃくちゃ増えたんです(笑)。

そうしたら兄が、3万円で買ったものがもし100匹になったらすごい事業になるんじゃないかと言い出しました。そこから祖父母に、ちょっとカブトムシ育ててみたいから、資金として500万円くらい出してくれないかという話をしました。

「ばか言ってんじゃない」と怒られましたが、いや真面目に言ってるんだと返して。毎日お願いし続けていたら、最後に祖父が「孫たちがやりたいって言ってるんだから、騙されたと思って出すしかない」と言ってくれたんです。さらに事業が回るまでの2年くらい、祖母が僕たちの食事などもすべて世話してくれて。これが大好きなカブトムシで起業した起点ですね。

写真:カブトムシを持つ石田さん

―生々しいストーリーをありがとうございます。就職、起業、廃業、再起、趣味と起業、兄弟経営などなど、ここまでの変遷キーワードがすごい。そして祖父母の方が創業を支えてくださったんですね。祖父母の方からいただいた初期資金は、どう活用されたんですか?

主にカブトムシを買うのに使いました。増やしていくためではありますが、そもそもこんなに魅力的なカブトムシは、買うしかない!みたいな感じで、計画性なくどんどん買って…。親戚や近所からは、僕は「カブトムシ好きのニート」という扱いでしたよ(笑)。

僕自身、そんな自分が恥ずかしくて引きこもっていたんですが、そのころ秋田銀行のある方が、おもしろいことをやっているのがいる、と言って、僕たちを秋田銀行のビジネスプランコンテストに出るよう勧めてくれたんです。そのプレゼンで、カブトムシの事業であること、秋田県にはキノコ農家がたくさんあり、その菌床などの廃棄物をエサにすることで、経費をかけずに昆虫を育て、高く売ることができる非常によいビジネスであることなどを話しました。SDGsとか、循環型とかの発想はまだ全くなかったんですが、結果的に僕たちはこのコンテストで優勝。それにより、公庫や他の銀行からも融資の話をいただき、今の事業にまで成長していったんです。

―資金集めは起業する際に必要不可欠であり最も難易度が高い要素の一つですが、石田家の祖父母の方はまさにエンジェル投資家そのものだったんですね。

本当ですね。祖父母はそもそも、僕たちが高校や大学に進学するお金などもすべて出してくれた。初代の成功によって石田家は土地を所有していましたが、カブトムシを買うための資金は、祖父母が、この先祖代々の土地で最後まで残っていたものを売却してまでお金を工面してくれたんです。祖父母は、本当は僕たちには公務員になって安定した生活をおくってほしい、もしくは上場企業で働いてほしいと願っていたのですが…。

―そんな背景もあったんですね。その背景が石田さんの成功への執念にもつながっているのでしょうね。事業には課題がつきものだと思いますので、課題についてもいくつかお伺いできますか?

廃棄物をどれだけ速く処理できるか、という課題です。カブトムシは通常1年でワンサイクルする生き物です。でもそれだと出荷や廃棄物処理のスピードが遅くなる。だから廃棄物処理に特に強い個体を何度も繰り返し掛け合わせて、強い種を作るんです。結果としてTOMUSHIでは、通常のカブトムシよりも成長スピードもゴミ処理速度も3~4倍速いカブトムシを作り出しました。

また、どんな廃棄物の餌にどの種が適応できるか、などの研究もしました。廃棄物に毒性があるものが入っていたら、それをカブトムシが好む微生物で一度発酵させることで食べやすくしたり。炭素が少ないエサもカブトムシは好みません。エサを切り替えた際に、3000匹居たカブトムシの半数が死んでしまったこともあります。エサはすべて廃棄物であるのが前提ですが、それでカブトムシを大きく効率的に育てるには、質が大切なんです。

―課題解決に向けた研究の深掘りなど、カブトムシ販売から専門的な研究にいたるまで真っ直ぐに、ある意味で苦労を苦労と思わずに挑戦を突き進んでいくところに、石田さんの事業家としての資質の一端を感じた気がします。よろしければ、カブトムシを活用して新たに挑戦していることを教えていただけますか?

廃棄物を処理したカブトムシ自体がタンパク源であり資源になるということを利用して、カブトムシの粉末を加工して商品化する計画を、大手企業とも連携して行っています。創薬に向けた布石として行っているのが、精力剤やエナジードリンクの開発です。

自然界のカブトムシは、死ぬと、体に冬虫夏草という、精力剤にも使われるキノコが生えてきます。つまりカブトムシの体にはそれを育てる栄養成分があるので、その成分を抽出して精力剤などに使うことができると考えました。

また養殖魚のエサの材料には魚粉が使われますが、魚粉の代わりにカブトムシの粉末を混ぜる試みも行っています。カブトムシには魚の食欲に関わる成分が豊富に含まれており、非常に食いつきが良いのです。…僕らとしては、こんなにかわいらしいカブトムシを粉末にする、というのは、最初はなかなか抵抗があったんですけど(笑)。

写真:パソコンの画面を見ながら話す石田さんと鈴木

―それは面白いですね。スケールしていくビジネスになる可能性があると思いますので、商品化されるのを楽しみにしています。さらにこの先の事業の方向性や会社として目指していることを教えていただけますか?

カブトムシやクワガタだけでなく、蠅、コオロギ、ミルワームなどさまざまな昆虫を使って、カブトムシだけでは効率的に処理できない廃棄物も含めたすべての有機廃棄物を、昆虫の力で資源化できる大規模な工場を作りたいと考えています。

当社は最短で2026年にはIPOを実施したいと考えていますが、IPOで得た資金を、廃棄物処理関連の技術や設備をもった会社との提携やM&Aに投じていきたい。そして、その仕組みを海外展開していくことがこれからの挑戦となります。

―大規模工場、是非実現していただきたいですね。そしてIPOを最短で、そこにはどういった考えがあるのでしょうか。

はい、先ほどもお話した通り、祖父母には、公務員か上場企業で働いてほしいと言われていました。ところがこんな風に僕たちは好きなことで起業をして、お金も支援してもらった。祖父母は、先祖代々守ってきた土地を自分たちの代ですべて失ってしまったのはすごい情けないことだと言うし、もう2人とも80代なのに、僕たちのことを心配し続けているんです。だから僕としては、最短でTOMUSHIを上場させて、2人が元気なうちに、俺は上場企業の社員だよと言って、安心させてあげたいんですよね。

―経営者にとって、幼少期のパーソナルな体験が、苦難を乗り越え成功までやりきれる重要な動機になる、ということはよくあることで、今それを強く感じました。挑戦を続け成功していたいだき、好きなことが大きな事業になっていく、そういった起業スタイルのロールモデルにもなっていただきたいですね。最後に、これから東北で起業していく人たちにメッセージをいただけますか。

正直なところ、当初僕自身は、東北で起業するメリットは少ないと思っていたんです。でも最近、あることに気づいて。兄が市議会議員選に出馬するのに、応援で一緒に回っていた時のことなんですが、地元の人がまちの未来を背負う若手にどれだけ期待を寄せているか、というのを強く感じたんですね。

政治とはまちづくりです。で、考えると、選挙の公約のように、事業で地域に貢献する起業も、まちづくりだと思ったんですよ。そう考えると、起業とは、究極的に地域の人たちが幸せになることをやっていくというのが一番大切です。その気持ちで事業を進めれば、地域ぐるみで応援をしてくれる。これが、東北など地域で起業することの一番のメリットだと思っています。

TOMUSHIは現在社員、インターン、業務委託、アドバイザーなどで10数名がおり、そこからさらにプラント導入企業がいわばフランチャイズに近い形で加盟会社があります。社員それぞれが事業部長のような形で動いておりマネジメントコストはほぼかからない。何より集まっている人はみんなカブトムシ・クワガタが大好きです。ビジョンに共感した人たちが、ものすごい熱量で仕事をする組織ができたことで、会社として順調に成長してこれました。結局、起業には何よりこの「思い」が大切で、能力は足りなくても後からキャッチアップできると思っています。

僕自身とにかくカブトムシが好きで、ただ好きなことをやっているだけ。やりたくない仕事はやらない。すると不思議なことに、人前で話すのは嫌だけど、事務をやるのは楽しいという人も出てくるわけです。また、僕の場合は常に夢やロマンを追い求めますが、兄は数字を追ってくれる。本当に生き物ではないですけど、多様性って大事だなと思って。

好きなことだけをやっていると、毎日がずっと夏休み、みたいな感じなんです。カブトムシの会社でIPOするっていうこと自体が、ロマンじゃないですか。子供たちも「カブトムシ(好きなこと)でここまで凄いことができるんだ!」と感じ喜びます。今でも開催するイベントで子供に「将来入社させてください」と言われることもあります。地方もどんどんビジネスチャンスが出てきている時代です。起業の失敗例もしっかりと学んだうえで、不安に思わずチャレンジをしてほしい。同時に起業がもつ楽しさを知っていただけるとうれしいですね。

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